時折ここで取り上げる自転車レースのツール・ド・フランス。さすがに今年は新型コロナの影響で、約2ヶ月遅れの8月29日スタートになった。またツール史上初の特別企画として、仮想空間(VR)での自転車レース『バーチャル・ツール・ド・フランス』(以下、バーチャルTDF)が開催された。バーチャルTDFは、Zwift(ズイフト)というトレーニングアプリを使う。ネットへ接続した室内トレーナーで自転車を走らせると、仮想空間のアバターレーサーも漕いだ分だけ前進する仕掛けだ。最近ロードバイク界隈で普及し始めていて、僕の友人達にも何人かユーザーがいる。ただ僕は使ったことがなく詳しいことは分からない。そこでユーザーの一人であるAさんと一緒に見たいと思い誘ってみた。
Aさんはウチの店のご近所さんで、2年ほど前からロードバイクに乗り始めた人だ。ただ走行時間の多くをZwiftで行っているのが僕と大きく違う。僕の感覚ではZwiftはあくまでも室内トレーニングで、実走が出来ない時の代用でしかないのだけど、Aさんはそれを自転車に乗る行為の一つと捉えている。そんな彼のスタンスや考え方が僕には新鮮だった。今回は閉店後のウチの店で一緒に観戦しながら、Zwiftのことをいろいろ解説して頂いた。
Zwiftは実際の走行条件をリアルに再現している。例えばプロの走るスピードは空気抵抗が大きく影響する。そこで風避けのため他の選手の後ろに付くのだが、Zwiftでも人の後ろではペダルが軽くなるようになっている。また登り坂ではペダルが重くなるように出来ている。それも体重が重い人ほどキツくなる、よりリアルな設定だ。いや、リアルなだけじゃない。走行中にパワーアップアイテムというものもゲット出来る。例えば後ろに付いた選手に風避け効果を与えないアイテムや、一時的に体重が9.5kg軽くなるアイテムといった具合だ。現実には有り得ないこんな仕掛けがVR独自の走り方や戦略を生む。Aさんの解説を聞きながらZwiftならではの面白さが段々とわかって来た!そう、これは自転車を用いたVRゲームなのだ。
ところがレースが長い下り坂に入ったところで、僕はふと違和感を覚えた。実際の選手の中継映像では、選手が皆ペダルを止め休んでいたのだ。ああ、そうか!下りは気を抜いても崖から転落なんてことは起きないんだ!Zwiftでは事故が起きない。そこには自動車も歩行者もいないし飛び出しもない。自転車もトレーナーに固定されていて転倒しない。つまり極めて安全だ。それがサイクリストにも安心感をもたらす。しかし実際のレースでは、カーブのハンドリングやブレーキ技術に長けた選手は、登りで遅れても下りであっという間に追い付き追い越す。逆に技術の劣る選手は下りが怖くてスピードが出せない。ロードバイク自体は速く走る為に作られているのに、だ。
Aさんの周りで一緒にロードバイクを始めた多くの人が、その後乗らなくなってしまったそうだ。颯爽と気持ち良く走るという理想形に辿り着くには、例えば事故リスクを減らす知識や技術を得たりしなければならず、初心者が越えていかなければならないハードルは高過ぎるそうなのだ。その点Zwiftはそれらをクリアして純粋に走る楽しみをすぐに享受出来る。天候にも左右されずスケジュール管理も自在だ。また同時にログインする他のリモートライダー達もいるから決して独りじゃない。回りくどい言い方をするなら、これはロードバイクで走りたいと思った人にとって『最適解が最短で得られる』方法の一つなのかもしれない。
PCやネットが生活の中に浸透し、それ無しには生きられない世の中だ。でもデジタル化は利便性と同時に、目に見えないもう一つのものを人々にもたらしたと思う。それは思考性に「答えは最短最速で求めるもの」という原理原則を浸透させたことだ。例えばショートカットは正義だ。と、ここで自分を顧みる。依然として、答えまで辿り着くプロセスにも楽しみや意義を感じる僕は、どうやら時代の後方集団であえいでいる壮年ライダーらしいと気付く。
いやいや、まだレースは終わっちゃいない!と言い聞かせてみたりして。
この記事へのコメント
ほな
お疲れさんでした。
ほな
自転車で国内一周してください。
ほな
いい足しています。
だあきち
江ノ島まで!信じられない!
ほな
さすがいい根性です。
ほな
サドルでお尻を痛めませんか。