第205話 てんのかみさまのいうとおり

  • 2024.07.18
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普段の暮らしの中で「詩人」って呼ばれる人と知り合うって、喩えるならどんな出来事と同じくらいの珍しさだろう。しかもほぼ毎日2~3枚の水彩画を描き続けている詩人だとしたら…。お友だちで詩人の平岡淳子さん。年間に約1,000枚のペースで、かれこれ7年も絵を描き続けています。以前このコラムでも取り上げたことがあったのですけど、「はて、いつの頃だろう?」と遡ってみたら、きっちり3年前でした。ウチのお店で彼女の絵を1ヶ月間、週替わりで展示した時のことを取り上げたお話(第131話「まるで弾き語りのように」)でしたね。
3年前の展示の様子。カウンターの中に立つ僕から一番よく見える展示場所。
平岡淳子さんと僕。3年前はマスク生活だったな〜。
先日、その平岡さんが3年ぶりに個展を開くということで、原宿の『ギャラリー装丁夜話』へ伺いました。『装丁夜話』はブックデザイナーの折原さんと平岡さんのお二人が運営するギャラリー。折原さんの「本に関わる形のギャラリーを開きたい」との想いで始まりました。実はギャラリーの営業時間がウチのお店と完全に被っているため、本来なら見に行けないはずでした。でも平岡さんのご厚意で、わざわざ休業日に開けて出迎えてくれたのでした。
ドーンと飾られたたくさんの絵。展示のレイアウトは、セツモードセミナーで長年教鞭を取られていた星先生直々に!
今回の展示タイトルは『平岡淳子展 100枚の水彩画 どれにしようかな てんのかみさまのいうとおり』。この3年間に描いた約3,000枚の中から、厳選した100枚余りを展示しています。とはいえ相当の枚数ですので、展示は壁面や棚などのスペースを目一杯使って、まさにフルボリュームの展開!でも威圧感のようなものを感じないのは、水彩画であること以上に平岡さんの描く絵が持つ優しさや明るさのおかげです。そのためか昼間に描いていると思われるそうですが、実は夜に描いているとのこと。
よく見ると上段以外はスケッチブックのまま展示。どれも一枚の絵の後ろに24枚の別の絵があるのです。絵のセレクトも星先生。
描かれる絵の題材は、果物や花、鳥や動物たち、お洋服などが多く、それらはご自身の日常にある物、その日記憶に残ったもの、湧いてくるイメージであり、描きたいと思ったものを直感的に描いているそうです。だから時にサイズ感が合わなかったり、デッサンがおかしなことになっていても、描きたいように、描くままに、描く。描き始めたきっかけも、たまたま手にした画材で描いたものを褒めてもらったことが始まり。その「描きたいから描く」初期衝動のような感覚のまま、現在も描き続けているからか、子供のような伸びやかさがどの絵にも感じられます。
左上:メロンのシールは実物。
右上:色をたくさん使いたいの、って仰ってました。
右下:お孫さんの洋服は優しい気持ちになれます。
左下:動物の中で何故かクマだけが擬人化されることに気付きました。
驚いたのは描く時間。1枚あたり数分、かかっても10分以内で、下書きは無し。また描くための筆はいつも使っている同じ筆1本だけ。3本100円で売っているセットの一本を使い続けています。スケッチブックも1冊25枚のものを使っているので、10日ほどで無くなってしまうため大量一括購入しているそうです。中には貰い物の古い書籍をスケッチブックがわりに使った絵もあり、書物の古さと相まって、最初からそこに描かれていたかのような印象もありました。
これが一番いいとの事。何物にも囚われず、自然に振る舞ううちに自分のスタイルを確立出来るって、強くてしなやかな精神を持っているからこそ。
図書館で貰ってきた廃棄される古書をスケッチブックがわりに。
今回は厳選した16枚の絵のポストカードブックが作られました。そこには平岡さんたっての希望で、カトリック宇部教会の片柳神父が発信する言葉が添えられました。詩人である自分自身の言葉を使わなかったのは、神父の言葉がピッタリくるという平岡さんの直感だそう。殊更なにかを訴えるためではなく、ただ自分の絵と他者の言葉が織りなす化学反応のようなものに、面白さを見出されていたのかもしれません。
ポストカードブック。片柳神父とは特に知り合いではなく、SNSでフォローするだけだったそうですが、発信されるその言葉がピッタリと感じ、直談判して実現されたとか。怖いもの知らずとも称される行動力の持ち主。
3,000枚を超える絵から厳選された16枚の一つ。採用率0.5%
今、私たちの日常は、事あるごとに心が荒れる場面に出くわします。そのせいか、平岡さんによって生まれた作品たちは、特別な意図などないはずなのに、それを見る人の心のキズを癒すかのような温かさを感じてしまいます。神父の言葉を添えるというアイデアも、きっと平岡さんが無意識のうちに見出した今を生きる私たちへのエールのようなものかもしれないな、と感じました。
先のジョウロの絵の裏側の言葉。先の見えない時代だからこそ。


この記事へのコメント


バジル

家族で訪れたい


ミキ

可愛い絵を見てると癒される


mame

クマだけが擬人化される、とありますが、ウサギも擬人化されてますね。


ゆーだいすきかあさん

物語が生まれてくるような こちらの心をほぐしてくれますね


ママ3さん

素敵ですね!


ママ3さん

素敵ですね!


さとみ

素敵ですね♪


WAKAKI19

まだ「詩人」出会った事ないです


がっちゃん

絵も優しいが「先が見えないことを・・・」の言葉がとても良い、力をもらいました


だあきち

素敵な絵ですね。
幸せな気分になります


おこめ

素敵です


ほな

絵筆が見たいです。


ほな

題材が広範囲ですね。感心しました。


hirune

キレイなイラストでほっこりしますね


江戸っ子

暖かい絵画ですね。カラフルな鳥たちの絵が好きです。


かぐや姫

心にまっすぐ入ってくるような絵と言葉
ず〜っと見ていたい

川柳文学賞大賞の副賞として句集を出して頂いて
そのタイトルが『かみさまのいうとおり』でした
不思議な繋がりも感じてします

このポストカードは買うことができますか
友だちへの頼りに使いたい

画集もあったら欲しいな
やさしい絵をいつも手元に置いておけたら
幸せだなと思う


コーヒーブレイク

水彩の線の儚さ、色の淡さ、夏の夢のようですね。


ぽんで

心がなごみました。


ポンちゃん

素朴ですが素晴らしい絵に神父さんのことばが心に沁みます! 小さい子供の頃は、毎日が驚きに溢れていたような気がします。

  • スッチー

    良いです。


スッチー

良いです。

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