第26話 B面の時間が始まる(前編)

  • 2017.02.13
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吉祥寺にある友人のカフェで、今月もカフェイベントを行った。
ハンモックとロッキングチェアのせいか、いつもゆったりとした居心地の良さがある。
僕はオーダーされた珈琲をハンドドリップしたり、空いた時間に読書したり、友人である店のマスターやスタッフの女の子、常連の人達と他愛もない話をして過ごす。
最近その店には小さなレコードプレーヤーが置かれ、いつもかけているBGMに飽きた頃、マスターはおもむろにジャズのLPを回し出す。
当初は数枚のレコードがあるだけだったが、聴きたいレコードを持ってきては置いていく常連もいるらしく、気付くといつの間にか増えていた。
どんなレコードがあるのか気になって漁ってみると、ジャズばかりのコレクションの一番端に、エルビスの2枚組があった。
エルビス・プレスリー。その名は誰もが聞いた事があると思う。 でも実際のキャリアを目の当たりにした人は、今やあまり多くは無いのではないだろうか。 なにしろ1950年代にロックンロールを生み出した人であり、あのビートルズのメンバーが憧れた人である。 僕自身も子供の頃、母親が家事をしながらエルビスのカセットテープをかけていなかったら、曲を聴く機会なんてなかったはずだ。 そのせいか、LPジャケットに書かれた曲名を順に追っていくと、意外と知っている曲が多いと思った。 そんな僕にマスターは「閉店したらこれをかけましょう」と言ってくれた。

ラストオーダーを過ぎると、店内にいたお客さんは徐々に帰り始め、閉店する頃には僕と僕のおくさん、常連のフリーカメラマン、スタッフの女の子、マスターの5人だけになった。 マスターはエルビスを回し始めた。聴いた事のある曲が次々と流れ出した。 そして所用があるけどすぐ戻ると言い残し、マスターはちょっと出掛けた。 イベントの片付けを済ませ荷物をまとめた頃、A面を聴き終えた。スタッフの女の子はレコードを裏返す。 つかの間の静寂に針のノイズ、そしてB面の最初の曲が軽快なビートと共に流れ出す。 マスターはまだ戻っていなかったが、クローズ作業を終えた彼女は店番を僕らに任せ、一足先に帰って行った。 程なくして入れ違いに、マスターは戻ってきた。
僕とおくさんは身支度をし、今日の礼を述べ帰ろうとした。 すると、マスターはカウンターの向こうから、一本のワインを手に取りながら、良かったらちょっと一杯飲んでいきませんか?と言った。 カメラマン氏が、閉店後にマスターと飲むつもりで持ち込んだものだった。 僕らは着込んでいた上着を脱いで、カウンター席に座った。 でも小腹が空いていた僕はまたすぐ立ち上がり、何か買ってくると言って、近所のコンビニへ向かった。
店に戻ると、「頂きものだけど」と言ってビールも用意されていた。 更にあり合わせのキャベツと納豆と何かで、酒の肴も作ってくれていた。 これがまた実に旨い。 僕が買ってきたポテトチップスと合うかも?などと言いながら、それをポテトに乗せたり、割り入れてみたりするうち、いつしか酒と肴の話は、酒と音楽、音楽とコーヒーの話題となり、エルビスの曲ごとにそれをイメージするブレンドが作れないか?だの、古き良きアメリカをテーマにイベントやろう!だの、好き勝手に盛り上がり始めた。 ふとカメラマン氏が「アメリカンコーヒーって、どうなんですか?」と尋ねてきた。そこで僕は、アメリカンと呼ばれるコーヒーが生まれるきっかけとなった18世紀後半の「ある事件」について話し始めたのだった。その事件とは、、、

次回へ続く

この記事へのコメント

おこめ

なるほど!

ほな

おう、懐かしいレコードプレイヤー。

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