第41話 Almost Paradise

  • 2017.09.25
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良く晴れ渡った9月のある昼下がり、僕はカミさんと連れだって近くの公園を訪れた。
薄れゆく夏の残り香と、初秋の到来を匂わせる感触を楽しみたかったし、なにより陽射しを浴びたかった。冗談で「光合成をした~い!」などと言ったりするが、正にそんな気分だ。身体中の葉緑素がブンブン唸る感じ。葉緑素、ないけど。とにかく陽射しさえ浴びられたらもう満足なので、そこに冷えたビールとちょっとしたつまみ、あと本の一冊でもあったなら、それはもうほとんど楽園に近い。Almost Paradiseだ。

カミさんはクロスバイク、僕はMTBで住宅街から街道沿いを走り抜け、ほとんど楽園な公園へと辿り着いた。そのまま園内をゆっくり奥へ進んでいくと売店があり、その向こうには柵で区切られたエリアが更に拡がっている。僕らは柵の手前に自転車を停めると、売店で缶ビールを2本、焼きそばとピラフを買った。そして今やこんな時の必需品、再登場。「保冷缶ホルダ~!」(←四次元ポケットから出しましたよ、えぇ。)


車両進入禁止の輪止めで区切られた入口から柵の中へと入り、少しばかり遊歩道を歩く。でも途中から道をそれて、広場を横切っていった。かなり奥まで進むと、だいぶ人も少なくなってくる。僕らは落ち着けそうな場所を選んで、持ってきたシートを広げた。前に使った時のどこかのビーチの砂が少しだけ舞ったりして、ふと脳裏に真夏の海がよぎる。靴を脱いで腰を下ろすと、さっそく乾杯だ!爽やかな青空と陽射しの中で味わうビールと焼きそばって、そりゃもう安定の美味しさ!けっして特別ではないけれど、特別なものにも思えてくる。


ビールはシートの上に置いていた。ホルダーの陽射しが当たる部分は熱いけど、中はいつも通り冷えたまま。たまりません。でも下の草がかなり伸びているせいで、フカフカして少し不安定だ。あれこれ置き場所を変えるうち、結局一番良かったのはスニーカーの中。大丈夫、一応臭くないよ。

思いの外お腹も空いていたせいで、あっという間に食べ終えてしまい、ちょっと物足りない感じだった。と、カミさんおもむろにカバンから何やら取り出す。上京したお友達がくれたお土産のお菓子だ。僕は初めて見たけれど、カミさんは好物だとか。ポリポリと摘まみながら、冷えたままのビールを飲む。僕は持ってきた本を読み始めた。カミさんは連日の仕事疲れで、早くもお昼寝タイムだ。


持ってきた本は飲食店開業に関するモノで、以前読んだものをたまたま本棚から選び出したのだ。僕は焙煎工房を営むもののあくまでも工房であり、店舗は持たずにここまでやってきた。でもいろんな流れで店舗を構える必要性も生じ、以前学んだ事を再確認しようと思っていたのだ。


ここで、ひとつカミングアウトしよう。実はこの二日後、突如として好条件の店舗物件が見つかった。だが開業へと動き出すも、大家さんの都合で契約寸前にNGとなる衝撃的な出来事があった。この間わずか1週間。もちろんこの読書の時点では知る由もないのだが。ショックは少なからずあり、親しい友人にさえ話す事が出来ずにいる。まあ、話が元に戻っただけなので、なにも変わらないせいもあるけれど。いや、でも話は戻ったにせよ、何も変わっていない訳じゃない。もっと良い条件の場所が見つかる可能性だってある。そんな風に思えているなら、この日の公園の様な気持の良い所に辿り着ける気がする。



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