NHKの『2355』という番組が好きで、ほぼ毎晩欠かさず見ている。番組名は放送時刻の23時55分のことなのだけど、ウチの奥さんが仕事から帰宅し、晩ごはんを一緒に食べるのがだいたいこのくらいの時間だ。もし帰宅が2355に間に合わないと“午前様”になるので、「それまでには帰らねば」と思わせる、ひとつのモチベーションになっている。逆にオンエアの時すでに食後のコーヒーなんか飲んでいたら、それはゆとりさえ感じる豊かなひとときとなる。
今回のテーマは2355ではなく2050。これは20時50分ではなく西暦2050年のことで、正確にいうと「コーヒーの2050年問題」を指す。未来の“ある時間”に対し「問題」なんて言葉を繋げるのだから、きっと何か都合の悪いことでもあるのだろうと、察しはつくかと思う。はい、当たって欲しくはないけれどその通り…。
それはコーヒーの国際研究機関が少し前に発表したもので(あまり言葉にもしたくないけれど、)「現在コーヒーの生産に適した土地の半分以上が、2050年には生産に不適切な土地になる。」という衝撃的な内容。メディアでもさらっと取り上げられたことがあるので、知っている人もいるかもしれない。ちなみに生産量自体は今の60%くらいになるらしい。この予測の主な理由は気候変動、いわゆる温暖化。生産に適した気温の上限を超えるようになり、病虫害に遭い易くなってしまうのだ。
だけど、一方で消費量は上がり続けている。この20~30年は2%/年くらいずつ上昇していて、2050年には今の200%、つまり2倍になると予測されている。温暖化で生産量は4割も減るのに、消費量は倍に増える。単純計算では10人に3~4人しか手に入らないことになってしまう。当然、価格は高騰するから、庶民には手の届かない富裕層の飲み物になっているかもしれない。これは30年後の予測だけど、その兆候はもっと近い将来、僕らの暮らしの中に姿を現しているだろう。
コーヒーの2050年は、残念ながらこんな未来予想図だ。だけど悲観することばかりではない。コーヒーはいつだって奇跡が味方をするからだ。それが前回おまけで触れた東ティモールの奇跡=「ハイブリッド・ティモール」の発見である。コーヒー豆は大きく2種類あって、美味しいけれど病気に弱いアラビカ種と、美味しさは足りないものの病気に強いロブスタ種だ。アラビカ種には「さび病」という病気があり、これまで実に多くの被害を出してきた。(この被害の話だけでコラム1本語れるほど。)ところが東ティモールで、さび病に耐性を示す一本のアラビカ種の木が発見されたのだった。
アラビカ種とロブスタ種は染色体の数が違うため、結ばれることのない間柄だ。ところが東ティモールで発見されたその木は、自然交配で両者が掛け合わされた、有り得ないはずの異種間交雑種だったのだ。おかげでアラビカ種でありながら、さび病に強いというロブスタ種の特徴を遺伝的に獲得していたのだ。近年はこのハイブリッド・ティモールを元にして、さび病に強く香味の良さも持ち得た品種改良が飛躍的に進んでおり、アラブスタ種などと呼ばれている。
コーヒーの歴史は調べれば調べるほど、奇跡としか呼べないような瞬間に出くわす。もしこれが小説だったら、嘘くさいと思うような無理のある展開だ。だからこそハイブリッド・ティモールに端を発する品種改良は奇跡の連鎖だし、温暖化による生産量低下というネガティブな物語に、僅かでも光を放つものだと思えるのである。30年後も奥さんと2355を見ながら、決して高価ではないけれど美味しいコーヒーを楽しみたい。
この記事へのコメント
ほな
地球の適正人口は50億人といわれていますが、正解を教えてください。
芒果6號
2355は録画して翌日見ています。
2050年問題も気になりますが、真夜中にコーヒー飲んでしまって睡眠が阻害されないかがもっと気になりました。
ほな
ブラジルの牛肉生産は世界2位です。肉牛を育てるため、アマゾンの森林が破壊し始めている。これと似ています。人間はだめですね。