9月15日のこと、僕の友人で画家の西山タカスケが、樹木希林さんを偲ぶイベントを主催した。彼の個人的な繋がりの中から希林さんに所縁のある二人の作家を招き、彼女について語り合うトークショーだ。この日は希林さんの命日だし是非参加したい!と思っていたら、突然彼から連絡があって、会場でコーヒーを淹れてほしいと頼まれた。僕は詳細も聞かずに二つ返事でOKした。
彼が招いた作家は、希林さん最後の主演映画「あん」の原作者ドリアン助川さんと、希林さんが亡くなった直後に公開された映画「日日是好日」の原作者である森下典子さんだ。ドリアンさんとは確か彼のアルバムジャケットか何かをタカスケが描いたのがきっかけだったと思う。森下さんとは不思議な縁で、彼女の著作「前世への冒険」にタカスケが実名で登場している。その小説は僕の経験にも共感する所があって、語りたいことは山ほどあるのだけど、それは別の機会に。
会場は東京の蔵前にある有形文化財、タイガービルだ。今回はトークショー以外にもピアノ弾き語りや、映画の絡みで茶の先生がお点前をするコーナー、僕が行うコーヒーの小部屋、また懇親会では作家の二人と直接お話も出来る魅力的な内容で、チケットはすぐに完売した。
トークショーは1時間半を超えるボリューミーなものだった。ドリアンさんの話で印象的だったのは、希林さんの役への姿勢だ。ハンセン病で手の不自由な主人公を演じる為に、1ヶ月間自分の手を縛って生活したこと。永瀬正敏さん演じる千太郎とぜんざいを食べるシーンでは、感極まって泣いてしまった永瀬さんに「美味しいときには笑うのよ」と希林さんは呟くが、それは彼女の完全なアドリブだったこと。またカメラマンを始め大勢のスタッフも、そのシーンを見て泣きながら撮影を続けたこと、等々。
「日日是好日」でもすごい話を伺った。森下さんはお点前の監修も付きっ切りで行ったそうだが、希林さんはお茶の先生役なのに、茶を点てる重要なシーンの撮影に対し「直前にやるから」と言ってちっとも練習をしてくれず、スタッフを慌てさせたそうだ。でも撮影2〜3日前に突然お点前を見せてと言い、三度ご覧になったあと自分でもその場で3回やって「わかりました」と一言。そんな状況で迎えた本番は、なんと一発OKだったそう!これは後日談もあり、上映でこのシーンを見たお茶関連の団体の人から森下さんに電話がきてしまい、何かお小言を言われるかと思いきや、希林さんのお点前の素晴らしさに「希林さんは長年お茶をなさってたのですか?」という問い合わせだったそう。
他にも多くの話が語られたが、残念ながら立ち見も難しいほど混んでいて、僕は会場内に30分も居られなかった。だけど僅かな時間でもこんな逸話が聞けたのは、「樹木希林」が稀有の存在だったということの証しだろう。
イベント中は何杯もドリップし、コーヒーの美味しさを直接感じて頂いた。また大勢の来場者、関係者と言葉を交わした。今更だけど一人ひとりが主役として、その人だけのオリジナルな人生を歩んでいる様を、これでもかというくらい感じた。
僕はこのイベントのために、希林さんを偲んで特別なブレンドを作った。パッケージには希林さんの告別式で語られた言葉『おごらず 人と比べず 面白がって 平気に生きればいい』を記した。四つのキーワードで出来たシンプルな言葉だけど、その一つひとつが多くの人にとって生きる指針となるように思う。
追記
今回の二つの作品はどちらも原作こそ読んだものの、実は映画を観ることなくイベントを迎えてしまった。是非機会を作って観なきゃなと思っていたら、会場で知り合った方から「明日『あん』の特別上映があるけど、チケットがあるのでどうぞ。」と頂戴してしまった!翌朝、僕は映画館で『あん』を観ただけでなく、更に上映後はドリアン助川さんのトークショーも拝見!(笑)そして同日午後には某百貨店のイベントで、ドリアンさんと森下さんのトークショーがある!とのことでそちらにも駆け付けた。そしてサイン会の列に並んで、前夜の御礼を伝えることが出来た。希林さんを巡るイベントは、結果として2日間に渡る濃厚なものとなった。
この記事へのコメント
おひるだ
希林さん、素敵な方でしたね。これからも記憶に残り続ける大好きな俳優さんです。
素敵なオリジナルブレンド、裏ラベルにジュリー、イイですね~♪
ほな
林田麻里さんはセリフが希林さん並み上手です。
ほな
珍しい人でした。
ほな
話題の多い人でした。
ほな
セリフ回しが良かった。
おかめ
希林さんは、好きな女優さん、沢田研二さんの、ポスターの前で、[ジュリー]、のせりふ、今でも忘れられない❗️
よもちゃん
会場ではきっと記憶に残るコーヒーだったんでしょうね。
ほな
希林さんは死後有名になりました。