第106話 子供の凱歌

  • 2020.06.30
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店がオープンして1ヶ月が過ぎた頃、弟の子供に会いに行ってきた。店とは誕生日が一日違いの、オープンの翌日に生まれた子だ。ここ最近は祝いの品を何にしようか迷っていたのだけど、たまたま赤ちゃんを抱いた近所のママさんが来店した際、どんなものが良いか尋ねてみた。服ならいくつあっても有り難いとの事だったので、後日近所のデパートへ買いに行った。
僕は子供がいないので、ベビー服というのは知ってはいるけど遠くにある、まるで冥王星のようなものだった。当然売り場自体もほとんど足を踏み入れたことが無い場所だった。でもいざ訪れてみると、なんて楽しい場所なんだろう!甥っ子のために服を選ぶと言うのが、こんなに気持ちのワクワクすることだとは思わなかった。そして同時にベビー関連のものがやたらと目に付くようになった。いやー、ベビー服ってヤバいね(笑)
足の形が弟のミニチュアだった(笑)
こうして無事にプレゼントも手に入れ、いよいよ奥さんと二人で弟夫婦の家を訪れることに。玄関ドアを開けてくれた弟の向こうに、赤ちゃんを抱いた彼の奥さん。そして遂にご対面!柔らかで、ちょっとフサフサしてて、ぜんぶちっちゃい。まだ生まれて一ヶ月。お腹の中にいた時間の方が長いなんて、凄過ぎる。良く見ると弟そっくりで、ホントに不思議な気持ちになる。その印象は言葉では言い表せない。強いて言うなら幸せの塊そのものだ。
抱かせてもらったけど、ご覧の通り不慣れ。ぎゃん泣きされて焦りまくる。
それともう一つそこにあったのは、夫婦二人で力を合わせて育てている姿だった。お互いに気遣い、子育ての苦労を分かち合っていた。否をなしに母親へとなってゆく弟の奥さんとは違い、弟は意識的に父親であろうとしていて、父親になることを楽しんでいるようにも見えた。おしめの交換にも彼なりのポイントがあるらしく、そんなコダワリも彼らしいと思った。周囲の人から息子を「かわいい~!」なんて言われようものなら鼻高々だと言ってたらしい。弟の奥さんがこっそり教えてくれた。バカたれめ(笑)
でもこの訪問で一番衝撃的だったのは、子供を抱きかかえる弟の姿が自分の父に見えたことだった。
弟によるミルクタイム。専用アプリでコントロールしていた。なるほどねー。
といっても僕に父の記憶はほとんどない。僕が4~5歳の頃に両親は離婚し、それ以降は基本的に女手一つで育てられた。だから僕がちゃんと分かるのは写真アルバムの中にある姿だけだ。そのアルバムの一枚に、生後数ヶ月の僕を抱きかかえた父の写真があるのだけど、弟が子供をあやす姿が写真の中の父そのものだったのだ。それも父親になろうと努力する心情や、乳児だった僕に向ける眼差しまでが、強烈なリアリティを伴って突如として目の前に現れたのだ。
憶えていませんが、生後4カ月の僕。モノクロームな昭和の風景。
正直に言おう。僕には「父」という概念が解らない。理屈では解るが、「父」と言うポジションが感覚的に理解出来ない。「親=母親」でそれが全てだったから、「車の両輪のもう片方」というようなイメージが湧かないのだ。ましてや僕自身が親ではないから、親、子、どちらの視点からも「父親」不在なのだ。でも唐突に、弟の身体を借りた父親が時空を超えてやってきた。そしてそれは錯覚なのに、僕は一瞬たじろいでしまった。周りに悟られるほどではなかったけれど。
ママのピアノの前で。楽器をおねだりされたら買ってしまいそう(笑)
この子の成長と共に、僕は弟の姿を通じて父親という存在感を知っていくのかもしれない。心の中で欠落していた何かが埋まっていくのは、僕にささやかな成長や気付きを与えてくれるだろう。甥っ子の誕生はこのような形で、僕自身にも思いがけない心の地殻変動のようなものをもたらしたのだった。


この記事へのコメント


ぽんで

子供は社会の宝ですね


ほな

少子化時代に貢献です。


ほな

可愛いお子さんです。


ほな

アットホームです。


ほな

可愛い足です。


にいちろう

ころなるな


ひろりん

58才の母親業です。夫がギャンブル好きでサラ金まみれ。バカみたいに返済していた。その内、浮気。その後もサラ金払い。振り返って、つまらない人生だったなぁと考えたりします。孫が出来て…離婚しなくて、これで良かったのかと思いますが…未だに許せない私がいます。


ほな

肩にちょっと力が入る。


ほな

いいね、アットホーム。

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