僕の山登りの楽しみ方のひとつは夜の山を歩く事。もちろん道迷いなど様々なリスクはあるけれど、それでも僕にはなくてはならないチャージタイムです。目を閉じて歩いても道迷いをしない熟知した低山で、日暮れが早い冬で雪が降っていないタイミングがベスト。
この日は天気にも恵まれたパーフェクトデイ。頂上に着いてひと休憩したころにサンセットが始まるスケジュールを逆算して麓から登り始める。今回登った山は東京都の高尾山。相棒のクマ(犬。以降クマと記載)も終始尻尾を振りながら歩き、鼻をクンクンさせて歩いている様子からすると今日はいつになく機嫌が良さそうだ。
僕が休憩をするタイミングは、クマもその時間。僕が歩く時間は、クマも歩く時間。時々フライング気味にクマが出発したがったり、僕のおやつを盗み食いしようとしたりと、自由でありながら常に少しだけ気を遣い合っている感じがなんだか僕達らしい。
僕が「地獄の階段」と名付けている、ため息が出るほど長い階段を登ったところが山頂。ケーブルカーもある山なので、この日は山頂でたくさんの人がカメラを構えてサンセットを待っていました。サンセットには不思議な魔力があって、太陽が落ち始めると雑音だらけの周囲が日没のスピードと同調するかのように静寂になっていく。
人々がケーブルカーの最終便に乗るべく少しずつ人が減り始める時間。このまだ少し明るいこの時間からが僕とクマの時間だ。茶屋で山菜たぬきそばを買い、木のベンチテーブルに腰を下ろしてゆっくりと汁をすする。モワモワと僕の口から吐き出される湯気が、暖冬とはいえ今が冬であることを感じさせてくれます。
僕のメインディッシュは、バックパックに忍ばせてきた懐中しるこ。冷えたシェラカップにボトルから熱湯を注ぎ温めたらこのお湯を冷ましてクマに。温まったシェラカップに懐中しるこを入れて再び熱湯を注いだら完成だ。再び冷え始めた身体に甘さと暖かさがじっくりと広がっていく。冷えた身体が人間味を帯びてくるこの数秒の時間がとても幸せだ。待ち時間にはもちろんクマにもおやつをあげる。
下山からが今回の登山の目的。人の気配が完全に消えた登山道は、耳がキンとなるほど静かで、偉大な自然の世界に僕とクマが迷い込んだかのような気持ちにさせてくれる。時々聞こえる野生動物と草が擦れる音。それに合わせてクマが「グーッ」と威嚇をはじめる。闇夜の森の奥に何を感じているのかは分からないけど、僕は自分の犬にもちゃんと野生が残っていることが嬉しかった。
どこまでも闇が続く奥深い森を覗くと少しゾクゾクする。そして、空を見上げると月明かりを感じられ逆に少し安心する。この繰り返しは、20数年前にアフリカの自然の中で迷子になったときのことを思い出す。
人間社会の時間や音から少しずつ自然に身体が馴染んでくると、自然の中の音も少なく光も無かった森が、自然の音と月明かりで満ちてくる。まるでさっきまでいた世界とは全く違う世界に変わったようだった。
間もなくゴールというタイミングで、お土産やそば屋エリアに入りはじめた。ゴーストタウンのようでほんの少し人の気配がある空気感が、急激ではなく、ゆっくりと僕を日常に再チューニングしてくれました。まるで少しずつ野生動物から人間に戻っていくような感覚にも近い。
解放された五感と日常の狭間のこの両方とも鋭くなっている感覚はある種のトランス状態で、僕はこの状態が好きだ。次々と新しいことを生み出せたり、今をより深く考察できるような感覚にしてくれます。
最近少し焦り気味に走っていた事もあり、忘れかけていたこの感覚になったことで少し冷静に、そして反省することができました。もう少し近所の森でもいいから夜の森を歩かないとなあ…。でも、雪山にも行きたい!
この記事へのコメント
メレンゲ
懐中しるこ 食べた-い!!
ゆーだいすきかあさん
静かに自分と対話ができそうですね
みみたろう
お汁粉の登場に親近感がわいてきました(笑)
なみや
写真も美しく癒されました。もっともっと知りたくなりました。
いりこ31
今年こそ山登りをしたいと思っています。
足腰が不安なのですが、少しずつ登れる低い山から挑戦してみたいです。
夜の山登りはワイルドですね!
かぐや姫
山歩きの非日常感は独特ですね
追体験させて頂きました
ありがとう
いちご
とても、楽しそうですね!
mii
素敵な時間ですね
コーヒーブレイク
自然と一体感の生まれる散歩、いいですね!
はる326
低山散歩、新たな発見がありそうですね。
ポンちゃん
夕暮れ時の低山良いですね!
ぽんで
クライマックスは感動的でした。
スッチー
良いです。
ミキ
山登り×山菜そば×おしるこ=最強‼︎
ほな
全国低山紹介の企画がいいですね。大阪は天保山。
江戸っ子
クマが威嚇した先にはどんな動物がいたのか気になる~
お汁粉でカロリー補給、いいですね!!
hirune
低山たのしいですよね~
相棒もいるなら安心ですね