石垣島を訪れると、いつも島暮らしの友人達に会うのだけど、どういう訳か今回は皆から同じことを言われた。それは「珈琲亭に行くと良い!」。珈琲亭は島の自家焙煎店だ。最近、職人気質な雰囲気のおじさんがパッケージ写真になっているコーヒー豆を、島の土産物店や空港ショップでよく見かけていたのだが、その人こそが珈琲亭の店主だということも、恥ずかしながら友人から聞いて初めて知った。しかも八重山そばが美味しい店だとも。ん?そばが美味しい自家焙煎店??ちょっと怖そうな感じのおじさんだけど、これはもう行かない理由はない。早速レンタカーで向かってみると、それは住宅街の中に忽然と、意外な形で現れた…。
大きな看板に『丸俊商会』の文字。そして店の外観はカフェや喫茶店というよりも、極めて正しい“お食事処”だ。間違えたか?と思ったが、看板の下に小さく『お食事処 珈琲亭』とあった。ランチタイムも終わる頃だったが、客足は絶えず、店員さんも忙しそうだ…あれっ?そばを運んでいるその店員さんこそ、あの“職人気質”さんでは?確かに本人だ。でもイメージと全然違って優しそう。ある種のギャップ萌えさえ感じる(笑) 席に通されつつ見渡すと、お客さんはほとんどが地元の方々の様だ。こういう店は絶対美味しいに違いない。オススメの“特製軟骨そば”を注文した。
ほどなくしてそばが登場。うん、美味しい!それもそのはず、珈琲亭の特製軟骨そばは、八重山そば選手権で準優勝したお墨付きなのである。しかも食事を注文すると、セルフサービスでコーヒーなどのソフトドリンク付き。それが日常的な値段で味わえるのだから、混んでいる訳だ。『お食事処 珈琲亭』は“地元の愛されるお店”なのだった。と、ここまではお食事処としての話。コーヒーに関するお話を伺いたくて、タイミングをみて自分の事をきちんと明かし、話を切り出してみた。
今回特に伺いたかったのは、島内で栽培されているコーヒーについてだ。そう、店主で焙煎士の砂川省吾さんは、なんと焙煎の傍らコーヒー農園も営んでいるのだ。店ではその農園で取れる100%石垣島産のコーヒー“やいま”を飲むことが出来る。このコーヒーは収穫量がとても少ないため豆の販売はなく、店内限定ドリップのみの高価で希少なものだ。そこで奥さんとシェアしようと思い1杯だけ注文をした。すると僕の分以外に、奥さんにも小さなカップで“やいま”を出してくれた。さらに自家製サーターアンダギーまで添えて!そして度々仕事の手を休め、わざわざ僕らのテーブルまで来てくれて貴重なお話を聞かせてくれた。
店は砂川さんのお父様が1972年に創業され、のちに自家焙煎もスタートした。そんな環境で育った砂川さんの焙煎歴は15歳からだとか(すごい!)その後大手コーヒー会社でキャリアを積むなどして事業を継承されたそう。コーヒー栽培は21歳の時にハワイから種を持ち帰り始められたそうだ。世界的に見て石垣島はコーヒー栽培の北限ギリギリだ。更にいくら可能だといっても、台風が毎年やってくる場所なんて他にはない。島ならではのこのリスクは大きく、一度の直撃で壊滅さえ有り得るし、実際過去にあった。
でも惜しみない努力と他の栽培エリアにない独自の工夫によって少しずつ収穫量を増やし、現在は農園も2か所運営している。工夫といえばそれは焙煎機にも見られ、化石サンゴを利用した独自の方式による焙煎をしていた。またコーヒーの6次産業化事業※として国内初の認定も受けるなど、新たな取り組みにも挑戦していた。ひとしきり話を終えた後も、店内モニターにTV取材を受けた時の映像を流してくれたり、お土産まで頂いてしまった。
コーヒーと石垣島。その二つが掛け合わさるユニークな生い立ちの向こうには、ご両親から引き継いだ諦めない力や創意工夫、また何より優しさに溢れる人柄があった。100%石垣島産コーヒー“やいま”の味わいは柔らかく、穏やかさの中に少しほろ苦さを感じた。それは砂川さんの人生経験が映し出されているようにも思えた。
※コーヒーの6次産業化とは:焙煎は食品加工なので第2次産業にあたり、コーヒー豆の卸や販売は第3次産業だ。同時に農園でコーヒー豆の栽培もするとこれは第1次産業となる。一つの事業者がこれらを総合的に業務展開することを、1+2+3で6次産業と呼ばれる。「6次産業化・地産地消法」の施行に伴い、新たな事業計画に対して農水省主導で支援が行われるがコーヒーに関する認定は丸俊商会が国内初となった。
この記事へのコメント
おこめ
いいですね
ほな
手作りカップで飲むコーヒーはうまいでしょう。
ほな
何処でもおいしいコーヒーがある。
ほな
沖縄は食材豊富です。
おかめ
八重山そば、食べてみたい。
ほな
何でも手作り。
ほな
空気が澄んでいる。うらやましい。