コーヒーにはいろいろなスイーツが合いますよね。「ペアリング」なんて言い方もしますが、組合せの妙を愉しむのもコーヒーの面白さのひとつです。相性の良い組合せと言えば、やはりチョコレートが最たるものでしょうか。でも敢えて僕は和菓子の“あん”とコーヒーの組合せをプッシュしたいです!たい焼き、草もち、おはぎ等など、ずっと慣れ親しんでいるスイーツだし、単に“あん”が好きという話なんですが。
前々回のコラムで映画「あん」のことに触れました。樹木希林さん最後の主演映画で、どら焼き屋の中年男性と元ハンセン病の高齢女性を通じて「人の生きる意味」を問う、大変深いテーマが描かれています。東京・東村山市に実在するハンセン病の療養所がモデルだったことから、映画でもロケ地として使われ、食堂のシーンも施設内のお食事処「なごみ」で撮影されました。ここには映画にちなんだ“ぜんざい”があり、また「旅する小豆たち」という名のパックでも販売されています。イベントを通じてその“あん”の存在を知った僕は、是非それを食べてみたいと思い、またこの療養所のことも知りたいと思っていました。すると偶然近くに伺う用事が出来たので、ある小雨混じりの週末、僕はひとり療養所を訪ねてみることにしました。
そこは国立療養所 多磨全生園(たまぜんしょうえん)といい、完治した元患者さん達が暮らす場所で、今では誰でも自由に出入り出来ます。でも以前は患者さんに対して厳しい隔離政策が取られ、また身体の変形といった症状などから、強烈な差別と偏見、多大な苦痛や苦難を強いてきた場所です。薬で治るようになった後も隔離政策は平成8年まで続けられてしまいました。
全生園には正門から入りました。人の気配が感じられず少し躊躇しましたが、それでも構わず進んでいくと、「お食事処 なごみ」の看板をみつけました。昼食時だったので、僕は店に入ると中ほどの席に座り、定食を注文しました。壁際には映画「あん」にまつわる展示があり、希林さんが着た衣装も飾られていました。しばらくすると、店の女性スタッフとお客さんの話し声が聞こえてきました。希林さんのイベントが云々、と言うのが耳に届き、ちょっと気になった僕は、頃合いを見てその女性に尋ねてみました。
それは都内の百貨店で希林さんにまつわる展覧会が開催されている※とのことで、なんとその場でチケットを頂いてしまいました。また撮影やその後の話、ぜんざいのこと、全生園や「なごみ」のことなど、様々なお話しをたくさん伺うことが出来ました。少し長居してしまったのでその場ではぜんざいを食べずに、「旅する小豆たち」をお土産に買って店を後にしました。そして更に敷地の奥へと進んでいきました。是非、納骨堂にお参りしたいと思ったのです。
それは雑木林の中にひっそりと佇んでいました。きちんと手入れが行き届き、花束が捧げられていました。僕の想像を遥かに超えた壮絶な人生を歩んだであろう人たちの亡骸を前に、僕はかける言葉がみつからず、「どうか安らかに。」としか言えませんでした。そしてお参りを済ませ、少し下がって振り返った時です。突然どこからか大きなアゲハ蝶が現れると、ひらひらと僕の方へ近付いてきたのです。蝶はそのままゆっくりと目の前を通り過ぎて、深い雑木林の奥へと姿を消してゆきました。「ご心配なく!私たちは、もう自由です。」そう言われたような気がしてなりませんでした。
その後、資料館を訪れましたが、それについてはここでは控えます。そこで感じたことは未消化で、まだ言葉に出来ないからです。でも今はっきり言えるのは、心のままに進んだ先で、心のこもった“あん”と出逢えたこと。また、そんな“あん”に寄り添えるような珈琲を淹れたいと、心底思ったことです。
これから先もどうか、人が人でありますように。
※展覧会は既に終了しています。
この記事へのコメント
ぽんで
あんとコーヒーは本当に合いますよね
ほな
コーヒーは何でもあえる、俺も何でも合います。
ほな
正月に残ったあんこで活用します。
ほな
これこそイノヴェーションです。
ほな
餡と合うとは思いませんでした。
ほな
餡が冴える
やかた
すごい
ほな
斬新です。