今年の夏、デイドリップコーヒーで小さな個展を開催した詩人・平岡淳子さんが、本の装丁などを手掛けるブックデザイナーの折原カズヒロさんとタッグを組み、この11月にギャラリーをオープンしました。その名は『ギャラリー装丁夜話』。折原さんは今の場所にオフィスを構えた当初から、その半分をギャラリーにしつつもしばらくは静かな運営に留まっていました。そこで平岡さんに声を掛けた所、持ち前の明るさとバイタリティ?ですぐに仕切り直しのリスタートを切ることに。「本に関わる形のギャラリーをおこなっていきたい。」という折原さんの想いに平岡さんが合流したことで、様々な本や作品との出会い、またそこに集う人との出会いを生み出す“折平ペア”のギャラリーが始まったのでした。
場所は東京・原宿のちょっと外れにある閑静な一角。オープンは金曜~日曜日の週末のみで、これは僕の店の営業と重なっています。でも先日ご厚意で休業日にオープンして頂けることになり、訪れる機会を得ました。ギャラリーに着くと“折平ペア”の他に二人のイラストレーターがいました。一人はオープニング第一弾としてスケッチ集「Sketch,Sketch」刊行記念イベントを開催中だったサイトウマサミツさん。もう一人は第二弾の展示「箱の中のバレリーナ」展を打合せ中だった小渕ももさんです。
サイトウマサミツさんは様々な女性誌や各種雑誌、大手ファッションビルのイラストレーションの他、有名チョコレートブランドのパッケージデザイン、また国内外の絵本やホスピタルアートなどでも活躍されるイラストレーターです。80年代から自分の楽しみとして続けている“街中で出逢う人々の何気ない瞬間のスケッチ”が徐々に注目を集めるようになり、今回折原さんのブックデザインによって実に魅力的なスケッチ集が刊行されたのでした。ギャラリーにはそれまでスケッチしてきた手帳の現物はもちろん、ギャラリー来場者をその場で次々と描き出したスケッチが多数飾られていました。
サイトウさんのスケッチは、例えばコートを着た女性でもその体形や重心の位置も見えてくるほどの描写力、また女性の暮らしぶりや使っているシャンプーの残り香まで漂ってきそうなほどの表現力を感じます。なんでもないカフェや駅のホームが、まるでパリの洒落た街角に見えてきます。そしてたくさんのスケッチを拝見するうち、次第にある事に気が付きます。それは“人に対するどこまでも温かなまなざし”です。「どういう人でもスポットを当てさえすればみんな綺麗!」と語るサイトウさんの言葉からも、人へ向けられた深い愛情を感じました。
それともう一つ、「Sketch,Sketch」には素敵な仕掛けが仕組まれています。それはスケッチした手帳をリアルに再現している点です。実物の手帳は全て右側のページに描かれていて、左側のページは空白なのですがその前のページのスケッチが透けて見えていたりします。刊行されたスケッチ集ではその透けた空白のページもそのまま再現されているのです。中にはインクが滲んでいたり、右ページの黒鉛が移っていたり、そんな痕跡も全て余すことなく表現されています。これはブックデザイナー折原さんが、実物の手帳に感じる魅力を見事に形にした素敵なアイデアです!
折原さん&平岡さん、そしてサイトウさんからたくさんのお話しを伺ったのですが、とてもここでは伝えきれません。そして次回展示の打合せ中だったイラストレーターの小渕ももさん!この日初めてお目に掛ったのですが、彼女の創り出す作品や世界観、何よりその暮らしぶりやこれまでの半生についてのお話は、僕の想像を大きく上回るもので感激してしまいました。ももさんのことはいつか(出来れば次回!)ここでご紹介したいと思います。僕ごときが取り上げるのも畏れ多いのですが、どこか「生きるヒント」のようなものをそこかしこに感じて仕方ないのです…。
この記事へのコメント
ほな
装丁にお金をかける余裕は大したもの。
だあきち
独特なタッチの絵で素敵ですね
イベントのポスターのお店、大好きなカフェです(^^)