第31話 美しきスパイラル

  • 2017.04.24
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先日フィギュアスケートの浅田真央さんが引退されました。多くのメディアは引退会見だけでなくこれまでの軌跡も取り上げていて、あらためてその凄さや功績に心を打たれた方も多かったのではないでしょうか。

浅田選手といえばやはりトリプルアクセルですが、歳を重ねるに従い、他の技の美しさにも磨きが掛ったのは言うまでもありません。 そのひとつに「スパイラル」という技があります。片足で滑っている間、もう一方の足を腰より高い位置にキープする技です。 両手を広げ、空を滑空するかの様に滑る様は、本当に美しかったなぁ。
コーヒーの世界にも有名な「スパイラル」があります。それはハリオが作ったV60というドリッパーです。

一般的なドリッパーは、内側にリブと呼ばれる線が垂直に付いていて、底には小さな穴が一つまたは複数あります。注いだお湯はドリッパー内に溜まり、ゆっくりチョロチョロと落ちていきます。

V60は、リブが中心に向かって緩やかに螺旋を描く「スパイラルリブ」。また形状は円錐型で大きな一つ穴です。この構造によりV60はお湯の抜けが大変早く、その抽出は「透過法」と呼ばれます。なんだか小難しい単語が多くてすいません。

近年、円錐型ドリッパーの認知度は上がってきました。
でもなぜあんなに穴を大きくするのか?なぜスパイラルなのか?その理由は、あまり知られていないと思います。
一般的なドリッパーは穴が小さいので、お湯は一旦溜まります。コーヒー粉は溜まったお湯に浸され→浸っている間に成分が滲み出て→コーヒーとなって穴から流れ落ちる、という事が起こります。簡単に言うと、①溜まる→②滲み出す、の2段階です。これを「浸漬法(しんしほう、またはしんせきほう)」と言います。
逆に言えば、味わいを決定付けるのはお湯の滞留時間で、それをドリッパーの穴の大きさや数で決めている=「ドリッパーが味を決める」と言えます。

でもV60は穴が大きいので、お湯は粉の中を次々に通過していく→通過する間だけ成分を拾う→コーヒーとなって流れ落ちる、となります。簡単に言うと、①抜ける、の1段階だけ。これが「透過法」です。透過法ではお湯が通過する瞬間しか成分を拾わないので、お湯を注ぐ量やスピード感で味を決める=「作り手が味を決める」と言えます。
ただ穴の大きさだけでは抜けの良さは生まれません。まず濾紙の外側にお湯が浸み出し易くなるよう、リブを高くとり、濾紙が宙に浮いた様な形になっています。 浸み出たお湯はリブが支える空間を落ちてゆき、底に集まります。その集まったお湯が留まらない様に穴が大きくしてあるのです。 また濾紙は柔らかいので、リブとリブの間にたわんで張り付く事もあります。するとその時だけお湯の抜けが悪くなり、味わいが不安定なものになります。 そこでリブを垂直ではなく緩やかに曲げる事で、濾紙のたわみが発生しないように工夫したのです。

つまりこのスパイラルは、ドリップ中の物理的弱点を補うための、美しくも効果的な形状、なのです。
真央ちゃんのスパイラルは、今後プロスケーターとしてのアイスショーの中で、また氷上を舞うことでしょう。
僕は僕のスパイラルの中で、コーヒーとの共演を愉しみたいと思います。

次回 はもう一方の抽出方式、浸漬法の魅力を掘り下げようと思います!


この記事へのコメント

*

私もハリオのV60の形が気になって購入して現在使用しています。穴の大きさやスパイラルに関しての知識がないままお湯を注ぐ量を変えてコーヒーの味の違いを楽しんでいましたが、とても考えられて作られた形だったんですね。明日もこの記事を思い出しながらドリップコーヒーを作ってみます。

ほな

きれいなグラスですね。

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