その人に出逢ったのは昨年、お友達が立ち上げた原宿のギャラリーを訪れた時のことです(以前のコラムを参照)。たまたま次の展示企画の打ち合わせに来ていたその人は、クリエイティブな仕事をする人が醸し出す固有の雰囲気はもちろん、どこかに自信と優しさも兼ね備えた様な佇まいが印象的でした。その名は小渕ももさん。80年代からイラストレーターとして活躍され、立体作品や服作りもこなす魅力的な女性です。本来なら詳しい取材をする予定は無かったのですが、何か惹きつけるものを感じた僕は、急遽お話を伺うことにしました。
ももさんが打ち合わせしていた企画は、立体作品の展示でした。それは紙で作られた箱状の舞台の中で、紙のバレリーナが踊っているという作品です。箱の天井には穴が開いていて、射し込んだ光はまるでスポットライトの様にバレリーナを照らします。この『箱の中のバレリーナ』は70〜80個も作ったそうで、ポーズや表情は全て異なります。この時は画像で拝見しただけなのですが、一目で気に入ってしまい、展示会の告知ポスターをウチの店にも掲示することにしました。するとせっかくだからと、箱の作品も一つ貸し出してくれることになりました。
小渕ももさん。1944年、静岡生まれ。デザイン学校を卒業後、パッケージデザインの仕事に就きますが、1980年頃にイラストレーターとして独立。当時は「女性の時代が始まった頃」(ももさん談)で、女性誌の出版などが相次ぐ中、多くのイラストを手掛けました。転機が訪れたのは、子育ても一段落した55歳の時。仕事が減り貯蓄の底が見え始め、更年期の症状が追い討ちをかけます。そこで彼女が決断したのは、なんと海外脱出!まずはロンドンの語学学校へ通い、アメリカ、ドイツ、そしてタイでは恵まれない子供達の施設をお手伝いするなど、数年に及ぶ様々な活動を経て日本に拠点を戻しました。
現在は「小屋の様な所に住みたい」との念願?が叶い、三浦半島の先に2軒の古い建物を借り、可能な限り自分でDIYしながら暮らしているとのこと。思わず「遊びに行っていいですか?」と言うと「どうぞどうぞ♪」とのことで、本当に行っちゃいました!たくさんの作品や画材、服飾関連の資材などがあるアトリエ、暮らしやすいよう自分色に仕立てた住居。そこでたくさんの、本当にたくさんのお話を伺いました。生きていく上でのヒントの様な言葉が幾つもありました。その中でも特に印象に残ったのは(単に僕が共感しただけですが)こんなお話でした。
「一つの事を始めたら、違うかなと思っても3年はやらなきゃ“キャリア”にはならないわよ。ただアレコレやってきた、ってだけになっちゃう。若い時はどんな事してても、絶対タメになる事はあるのよ。縁あって始めたって事は、自分がこうなりたいと思っていると、不思議なことにそっちに道が付いていくの。想いって通じるって言うけど、本当にそうなのよ!」
なぜ共感したかと言うと、今でこそ自分のお店を構えて、何か“コーヒーを巡る冒険”のような暮らしをしていますが、今の自分を支えてくれて、一番役に立っている知恵や知識や経験の多くが、会社員時代に一番辛くて嫌だった時の仕事で学んだものだからです。
もちろんそれは単なる偶然だし、ただ手持ちの武器で出来ることをやるしかないのだから、当たり前と言えなくもないです。けれど不意に浮き沈みを繰り返す時代の真っ只中で、常に自分自身と向き合い、自分の道を切り拓き、今日まで歩んできた人のお話の中に、自分と同じものを見つけられたのは自信に繋がります。そしてまた自分も、必要な誰かがいたならバトンを渡すがごとく、そんなお話を伝えてみるのも悪くないと思ったりしています。例えばwebメディアのコラムで、とか?笑
この記事へのコメント
江戸っ子
石の上にも三年とは、まさに、この事ですね♪
前向き発言は、大事なのかも!!
だあきち
アーティストの自宅って、素敵ですね!
写真に写っている作品が、どれもかわいいです
ゆーだいすきかあさん
ステキな方を紹介してくださってありがとうございます
心動きますねバレリーナ
三浦半島行ってみたいです
はるちゃん
バレリーナに会いに行きたいです。
ほな
凄い作品です。